◎櫓櫂の製材(記録)
 平成26年1月22日 港林業(八代市)

櫓の材、特にそのハの部材はイチイガシが良い。
しかし、イチイガシは普通の製材所で入手することは難しい。
今普通にある製材所では一般につかう杉材やヒノキ材くらいしかおいていない。イチイガシを手に入れるには、材木市で仕入れてこなくてはいけない。
もし、仮にイチイガシを手にいれることが出来たとしても次の問題がある。
イチイガシをハに使う材として切り出すには、丸わきではいけない。ハの細長い形だと、丸わきで製材してしまった材は、割れや反りによって使い物にならない。また、製材の仕方でひとつの丸太からとれる櫓の本数も変わってくる。
製材の方法や無駄のない技術が必要なのだ。
八代市の港林業。そこを上天草松島の元船大工の松岡亀松氏に紹介してもらった。
松岡氏は港林業から船や櫓の材を仕入れ、ここ何十年かの付き合いだという。
松島―八代間のフェリーが運航していた当時は船で松岡造船所まで材を運んでいたそうだ。
港林業は八代港の旅客船桟橋から車で数分。今は埋め立てで海から200mほど離れた立地だが、もともとはその名前のとおり、海に面していた。杉、ヒノキはもとより、カシやそのほか銘木も扱う。
この製材所のウリは、船舶内装の木造部などを加工・仕上げまで行えることや細かいにニーズに応じた製材技術だ。
松岡氏を通じ、港林業にイチイガシとシイ(ウデと櫂の材)を事前に注文し、仕入れてもらった。
御所浦からは当会の野原と船大工の荒木義夫、海上タクシーの長井美保が参加し、松岡氏にも松島合津港で合流していただいた。
ハ部材の製材方法について、港林業はこれまでの経験で分かっているとのことだったが、製材技術を荒木義夫に引き継ぐことも目的としたからだ。
材料の質や歩どまりを考え、
「木と魚は、ふとかば買え」
といわれている。
普通の材木市では手に入らないイチイガシを、港林業は都城の銘木市で仕入れてきた。
イチイガシともにウデおよび櫂の材として準備してもらった木材は以下の通り。

櫓のハ用:イチイガシ×2本(3.8mと3m)
櫓のウデ・櫂用:シイ×2本(4.3mと4.2m)

仕入れてきた木材は製材を始めてみないとその本当の質は分からない。
切り出してみたら中に大きな節があったり、実は平地でなく坂地に生えた木であれば、乾燥時に曲がってしまうかも知れない。
これは、材木屋の目利きもあるが、運の要素もおおきい。
10丁分のハ部材をとっても、うち2本くらいは曲がったり割れたりして使い物にならないものだと松岡氏はいう。
しかし、松岡氏は今回港林業が用意したイチイガシをみて
「これは、よか木ばい。わたしの注文したときもこがんよか木は用意してもらったことはなか」
と、なかば冗談まじりに言っていた。
イチイガシの製材にとりかかる前に、松岡氏は製材技術者と打ち合わせる。
以前から船材や櫓の材を頼んでいた顔なじみの製材技術者だ。
チョークで簡単な図を描いて切り出し方を確認していく。
櫓のハには切り出し方がある。
木は中心側と外側で乾燥後の縮み方がちがう。櫓のハのように細長い材は、乾燥時に曲がってしまいやすいものだが、ハは上下に曲がるのはなんとか使用に耐えるし、曲がってしまったのをある程度直すことが可能だが、左右に曲がってしまうと曲がったのを元にもどすことはできず、使い物にならない。
では、どのように切り出すか。
ハの下面が常に芯に対し直角になるように切り出すのである。
つまり切り出す時に、1回1回丸太を回転させることになる。そして、芯材はつかわない。かならず割れるからだ。もし、これを丸ワキ(丸太を平行にスライスしていくこと)してしまうと、多くのハが左右に曲がってしまうことになるし、芯材も混ざってしまう。
また、ハの材の長さは(つくる櫓のサイズによるが)10尺〜12尺程度だが、厚さは手もと(ウデ)側で2寸、ハ先の方では6分有れば良く、そして、ハは中心線が厚く左右は薄くなっている。
材を四角く切り出さず、この形が収まる、ロスが少ない形に切り出す。これも切り出し毎に丸太の角度を微調整することで達成できる。この作業を手早く実行するには、いうまでもなく長年の経験と勘が必要である。


製材の様子@

まずは面をとる。木の曲がりを見て、まっすぐに切り落とす。
手もとのレバーで機械を動かし、数ミリ単位で木の位置を微調整する。


製材の様子A

切断面を見て、松岡氏から指示が入る。
ハの先は薄く、手もと向けて厚くなる形にすればよいので、その形が収まる無駄の少ない形で、ななめに切り出していく。


製材の様子B
切り出した材に、幅4寸、長さ10尺と目印をつける。
ハのサイズのイメージが見えてくる。
このサイズを基準に、木を回しながら出来るだけ多く材がとれるようにする。


製材の様子C
芯を中心にし、切り出すごとに回転させる。
1回1回微妙な角度の調整も行うので、非常に手間がかかる。


製材の様子D
切り出した材は、厚い方が2寸、ハの先に向けて10尺のあたりが8寸になっている。
最後に4寸になるよう両サイドを切り落とし、ハの製材は修了。切りそろえるときに出る細い材をハ部材の保管時のゲタにすると経済的。
この後、最低4ヶ月は日陰で乾燥させたものを使って、櫓の制作をする。


製材の様子E
シイの木は櫓のウデと櫂の材となる。
こちらは丸わきでよい。


製材の様子F
海上タクシーに積み込み記念撮影。
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